変形性膝関節症
変形性膝関節症は、膝関節の表面を覆うクッションの役割をする軟骨がすり減り、関節に変形や炎症が起こることで、痛みや機能障害を引き起こす疾患です。加齢とともに発症頻度が高くなり、特に50歳以降の女性に多く見られます。日本人に最も多い関節疾患の一つで、階段の昇降や歩行に大きな影響を与えます。
変形性膝関節症の症状
変形性膝関節症の典型的な症状は、膝の痛みと動きの制限です。初期には、歩き始めや階段の昇降時に痛みを感じますが、しばらく歩くと痛みが軽減することがあります。進行すると、安静時にも痛みを感じるようになり、膝の曲げ伸ばしが困難になります。また、膝に水が溜まって腫れることや、関節がきしむような音がすることもあります。さらに進行すると、O脚やX脚などの変形が目立つようになります。
変形性膝関節症の原因
変形性膝関節症の主な原因は加齢による関節軟骨の自然な摩耗です。しかし、肥満による膝への過度な負担、過去のケガ(靭帯損傷、半月板損傷、骨折など)、筋力低下、遺伝的要因なども発症に関与します。また、O脚やX脚などの足の形の異常により、膝の一部に集中的に負荷がかかることも原因となります。
変形性膝関節症の治療
保存療法
初期から中等度の変形性膝関節症では、保存療法が中心となります。体重管理は最も重要で、体重を減らすことで膝への負担を軽減できます。痛み止めの服用、湿布の使用、膝を温める治療が痛みの軽減に効果的です。理学療法では、太ももの筋力強化(特に大腿四頭筋)、関節の可動域訓練を行います。杖や歩行器などの補助具の使用も有効です。膝に水が溜まった場合は、注射で水を抜いたり、ヒアルロン酸を注入したりすることもあります。
手術療法
保存療法で改善が見られない場合や、痛みが強く日常生活に大きな支障をきたす場合には手術が検討されます。比較的軽度の場合は、小さなカメラを使って関節内を洗浄する手術や、骨を切って脚の向きを矯正する手術が行われます。重度の場合は、人工膝関節置換術が選択され、摩耗した関節面を人工の部品に置き換えることで、痛みの軽減と機能の回復を図ります。
靭帯損傷
膝の靭帯損傷は、膝関節を支える丈夫な紐状の組織である靭帯が、外力により伸びたり部分的または完全に切れたりするケガです。膝には4つの主要な靭帯があり、特に前十字靭帯と内側側副靭帯の損傷が多く見られます。スポーツ活動中に発症することが多く、適切な治療を行わないと膝の不安定性が残ることがあります。
靭帯損傷の症状
靭帯損傷の症状は、損傷した靭帯と程度により異なります。受傷直後は激しい痛みがあり、多くの場合「ボキッ」という音を感じます。膝が腫れて熱を持ち、内出血により青紫色に変色することもあります。前十字靭帯損傷では、膝がガクッと外れるような不安定感や、膝が完全に伸びない症状が特徴的です。歩行困難となり、階段の昇降や方向転換時に膝がグラつくことがあります。
靭帯損傷の原因
膝の靭帯損傷は、主にスポーツ活動中の急激な方向転換や着地の際に発症します。バスケットボール、サッカー、スキー、バレーボールなどでよく見られ、特に女性アスリートに前十字靭帯損傷が多いことが知られています。コンタクトスポーツでの他選手との接触や、ジャンプ後の着地時の膝の捻りなどが主な原因となります。
靭帯損傷の治療
保存療法
部分断裂や軽度の損傷、またはスポーツ活動を行わない方では保存療法が選択されることがあります。急性期には患部を冷やし、膝サポーターやギプスで固定します。痛み止めの使用と段階的な荷重開始を行います。理学療法では、太ももの筋力強化により膝の安定性を高めます。ただし、完全断裂の場合は膝の不安定性が残る可能性があります。
手術療法
完全断裂の場合や、スポーツ復帰を希望する活動度の高い方では手術が推奨されます。前十字靭帯損傷では、自分の腱を使って新しい靭帯を作る再建術が行われます。手術は主に小さなカメラを使った方法で行われ、入院期間も短縮されています。手術後は段階的なリハビリテーションを行い、スポーツ復帰まで6ヶ月から1年程度を要します。
半月板損傷
半月板損傷は、膝関節内にある三日月形のクッション材である半月板が損傷する疾患です。半月板は膝の内側と外側にそれぞれ1個ずつあり、膝にかかる衝撃を和らげる重要な役割を果たしています。スポーツ外傷や加齢による変性により発症し、適切な治療を行わないと膝の機能に長期的な影響を与える可能性があります。
半月板損傷の症状
半月板損傷の典型的な症状は、膝の痛みと引っかかり感です。特に膝を捻る動作や、しゃがみ込む動作で痛みが強くなります。膝が完全に曲がらない、または伸びない状態(ロッキング)が生じることもあります。階段の昇降時の痛み、膝の腫れ、膝がガクッと崩れる感じなども見られます。症状は動作により変化し、安静時には軽減することが多いです。
半月板損傷の原因
半月板損傷の原因は大きく2つに分けられます。一つはスポーツ外傷による急性損傷で、膝を捻りながら体重をかける動作で発症します。もう一つは加齢による半月板の劣化に伴う変性断裂で、日常生活の軽微な動作でも損傷が生じることがあります。バスケットボール、サッカー、テニスなどの競技や、しゃがみ込み作業の多い職業の方に多く見られます。
半月板損傷の治療
保存療法
軽度の損傷や変性断裂では、まず保存療法が試されます。安静、痛み止めの服用、膝を冷やす治療が基本となります。症状が改善したら、段階的に活動を再開し、太ももの筋力強化を行います。膝サポーターの使用も効果的です。ただし、症状が持続する場合や、膝のロッキングが頻繁に起こる場合には手術が必要となります。
手術療法
保存療法で改善が見られない場合や、日常生活に支障をきたす場合には手術が検討されます。現在は小さなカメラを使った関節鏡手術が主流で、損傷した部分の除去や縫合修復が行われます。可能な限り半月板を温存する治療方針が取られており、特に若年者では縫合術が積極的に行われます。手術後は段階的なリハビリテーションを行い、多くの場合良好な経過が期待できます。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)
ジャンパー膝は、膝の皿(膝蓋骨)と脛の骨をつなぐ腱に炎症が起こる疾患で、正式には「膝蓋腱炎」と呼ばれます。バレーボールやバスケットボールなど、ジャンプ動作を繰り返すスポーツで多く見られることからこの名前がつきました。成長期から青年期のスポーツ選手に好発し、適切な治療と休息が重要です。
ジャンパー膝の症状
ジャンパー膝の典型的な症状は、膝の皿の下部分の痛みです。特にジャンプやランニング、階段の昇降時に痛みが強くなります。初期には運動後に痛みを感じる程度ですが、進行すると運動中や日常生活でも痛みを感じるようになります。膝を曲げた状態から急に伸ばす動作や、しゃがみ込む動作で痛みが増強します。患部を押すと圧痛があり、腫れを伴うこともあります。
ジャンパー膝の原因
ジャンパー膝の主な原因は、膝蓋腱への繰り返しの負荷です。ジャンプの着地時や蹴り出し時に、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)が強く収縮することで、膝蓋腱に過度なストレスがかかります。練習量の急激な増加、ジャンプ技術の未熟さ、筋力の不均衡、硬いコートでの練習なども発症に関与します。成長期では骨や腱がまだ十分に強くなっていないため、特に発症しやすい状態にあります。
ジャンパー膝の治療
保存療法
ジャンパー膝の治療は保存療法が中心となります。最も重要なのは、痛みを引き起こすスポーツ活動の休止です。痛み止めの服用、患部を冷やす治療、テーピングやサポーターの使用が効果的です。理学療法では、太ももの前と後ろの筋肉のストレッチ、筋力バランスの改善を図ります。症状が改善したら段階的に運動を再開し、ジャンプフォームの改善指導も行います。
その他の治療
保存療法で改善が見られない慢性例では、体外衝撃波治療や、血小板を濃縮した液体を注射する治療などが試されることもあります。手術が必要となることは稀ですが、長期間症状が続く場合には、変性した腱組織を切除する手術が検討されることもあります。
オスグッド病(オスグッド・シュラッター病)
オスグッド病は、成長期の子どもに見られる膝の成長障害の一つで、正式には「オスグッド・シュラッター病」と呼ばれます。膝の皿の下にある骨の突出部分(脛骨粗面)に痛みと腫れが生じる疾患です。10~15歳のスポーツをする男子に多く見られ、成長が終了すると自然に治癒することがほとんどです。
オスグッド病の症状
オスグッド病の典型的な症状は、膝の皿の下の骨が飛び出た部分の痛みと腫れです。特に走る、ジャンプする、階段を昇るなどの動作で痛みが強くなります。患部を押すと痛みがあり、見た目にも骨の突出が目立つようになります。痛みのため、しゃがみ込む動作や正座が困難になることもあります。通常、片側に発症しますが、両側に生じることもあります。
オスグッド病の原因
オスグッド病の原因は、成長期における骨の成長と筋肉の発達のアンバランスです。太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)の強い収縮により、膝蓋腱を通じて脛骨粗面に繰り返し強い牽引力がかかります。この部分はまだ軟骨の状態で弱いため、炎症や微細な損傷が生じます。サッカー、バスケットボール、陸上競技など、走ったりジャンプしたりするスポーツで発症しやすくなります。
オスグッド病の治療
保存療法
オスグッド病の治療は保存療法が基本となり、成長の完了とともに自然治癒が期待できます。急性期には運動を休止し、痛み止めの使用や患部を冷やす治療を行います。太ももの前の筋肉のストレッチが特に重要で、筋肉の柔軟性を保つことで症状の軽減が図れます。膝サポーターや専用のバンドの使用も効果的です。
スポーツ復帰と予防
痛みが軽減したら段階的にスポーツ活動を再開しますが、痛みが再発した場合は再度休息が必要です。完全にスポーツを禁止する必要はありませんが、痛みの程度に応じて活動量を調整することが重要です。普段から太ももの筋肉のストレッチを習慣化し、急激な練習量の増加を避けることで予防が可能です。手術が必要となることは非常に稀です。