筋膜性腰痛症
筋膜性腰痛症は、腰部の筋肉や筋膜に起こる痛みの総称で、急性腰痛症(ぎっくり腰)の一因としても知られています。レントゲンやMRIなどの検査を行っても、骨や椎間板などに明らかな異常が見つからないタイプの腰痛の代表的な疾患です。日常生活やスポーツ活動での不適切な動作により発症することが多く、腰痛の中でも頻度の高い疾患です。
症状
筋膜性腰痛症の典型的な症状は、腰部から臀部にかけての鈍い痛みや重だるさです。朝起きた時の痛みや、長時間同じ姿勢を続けた後の痛み、動き始めの痛みが特徴的です。また、筋肉の緊張により、腰部から肩にかけてのこわばり感を伴うことも多いです。通常、足まで痛みが響くことはありませんが、お尻に痛みが広がることがあります。
原因
筋膜性腰痛症の主な原因は、不良姿勢や筋肉の使いすぎによる筋疲労です。長時間のデスクワーク、重い物の持ち上げ、急激な体幹の回旋動作、運動不足による筋力低下、ストレスなどが発症の誘因となります。また、寒冷な環境での作業や、睡眠不足も筋肉の緊張を高める要因となります。
治療
保存療法
筋膜性腰痛症の治療は保存療法が中心となります。急性期には適度な安静が必要ですが、長期間の安静は筋力低下を招くため注意が必要です。消炎鎮痛剤の服用、温熱療法、筋弛緩薬の使用が効果的です。また、理学療法士による運動療法、ストレッチング、マッサージなども痛みの軽減と機能改善に有効です。慢性化を防ぐため、早期からの適切な運動指導が重要です。
その他の治療
症状が長期化する場合には、トリガーポイント注射なども選択肢となります。また、生活習慣の改善、職場環境の見直し、ストレス管理なども重要な治療の一環となります。
腰椎椎間板症
腰椎椎間板症は、椎間板の変性により腰痛が生じる疾患です。椎間板ヘルニアのように神経を圧迫していないものの、椎間板自体の変性や損傷により腰痛を引き起こします。加齢に伴って発症頻度が高くなり、20代後半から見られるようになります。
症状
腰椎椎間板症の典型的な症状は、慢性的な腰痛です。特に体を前に曲げる動作(前かがみになる)や長時間座った姿勢で症状が悪化し、体を後ろに反らす動作で軽減することが特徴です。朝の起床時に痛みが強く、動いているうちに軽減することもあります。通常、下肢への明らかな神経症状はありませんが、腰部からお尻にかけての重だるさを伴うことがあります。
原因
腰椎椎間板症の主な原因は、加齢による椎間板の変性です。椎間板の水分含有量が減少し、弾力性が失われることで、背骨への負荷を均等に分散することができなくなり、一部に過度な負担がかかって痛みが生じます。重労働、喫煙、遺伝的要因なども椎間板変性を促進する因子とされています。
治療
保存療法
腰椎椎間板症の治療は保存療法が中心となります。消炎鎮痛剤の服用、温熱療法、腰部コルセットの使用などが行われます。理学療法士による運動療法では、腹筋・背筋の強化、柔軟性の改善を図ります。日常生活指導も重要で、正しい姿勢の指導、重い物の持ち方の指導などが行われます。
手術療法
保存療法で改善が見られない重症例では、椎間板摘出術や椎体固定術が検討されることもあります。
変形性腰椎症
変形性腰椎症は、加齢や過度の負荷により腰椎の関節や椎体に変形が生じ、腰痛や機能障害を引き起こす疾患です。椎間関節の軟骨摩耗、椎体の骨棘形成、椎間板の変性などが複合的に起こります。中高年以降に多く見られ、加齢とともに発症頻度が増加します。
症状
変形性腰椎症の典型的な症状は、慢性的な腰痛と腰部の運動制限です。特に朝の起床時や動作開始時に痛みが強く、動いているうちに軽減することがあります。長時間の立位や歩行で痛みが増強し、前屈動作が困難になることが多いです。天候の変化により症状が悪化することもあります。
原因
変形性腰椎症の主な原因は加齢による腰椎の変性変化です。長年の荷重負荷により椎間関節の軟骨が摩耗し、椎体に骨棘が形成されます。重労働、肥満、遺伝的要因、過去の外傷なども発症に関与します。また、筋力低下や姿勢不良も症状を悪化させる要因となります。
治療
保存療法
変形性腰椎症の治療は保存療法が中心となります。消炎鎮痛剤の服用、温熱療法、腰部コルセットの使用が基本的な治療となります。リハビリでは、腰部の可動域訓練、筋力強化、姿勢改善指導が行われます。体重管理も重要な治療要素です。
手術療法
保存療法で改善が見られず、日常生活に著しい支障をきたす場合には、脊椎固定術などの手術が検討されることもありますが、高齢者では手術リスクを十分に検討する必要があります。
胸腰椎圧迫骨折
胸腰椎圧迫骨折は、胸椎と腰椎の移行部(第11胸椎から第2腰椎)に好発する圧迫骨折です。骨粗鬆症を背景として、軽微な外力で発症することが多く、高齢者に頻繁に見られる骨折です。複数椎体に同時発生することもあり、脊椎の変形を来すことがあります。
症状
胸腰椎圧迫骨折の典型的な症状は、突然の激しい背中の痛み・腰痛です。体動時に痛みが増強し、安静時には軽減します。骨折部位により痛みの部位は異なりますが、背中から腰にかけての広範囲の痛みを認めることが多いです。進行例では、脊椎の後弯変形(亀背)により身長の短縮が生じます。
原因
胸腰椎圧迫骨折の最も重要な原因は骨粗鬆症です。骨密度の低下により、くしゃみや軽微な外傷でも骨折を生じることがあります。閉経後の女性に特に多く、ステロイド薬の長期使用、糖尿病なども骨粗鬆症のリスク因子となります。
治療
保存療法
多くの症例で保存療法が選択されます。安静、消炎鎮痛剤の服用、コルセットによる外固定が基本的な治療となります。骨粗鬆症の治療も並行して行われ、ビスフォスフォネート製剤やデノスマブなどが使用されます。カルシウムとビタミンDの補充も重要です。
手術療法
保存療法で改善が見られない場合や、神経症状を伴う場合には、椎体形成術(バルーン椎体形成術など)が検討されます。これにより、早期の疼痛軽減と機能回復が期待できます。
腰椎分離症
腰椎分離症は、腰椎の椎弓の一部(椎弓根と関節突起間部)に亀裂や分離が生じる疾患です。多くは第5腰椎に発症し、成長期のスポーツ選手に多く見られます。疲労骨折の一種と考えられており、適切な治療により骨癒合が期待できる場合があります。
症状
腰椎分離症の典型的な症状は、腰椎の伸展時(腰を反らせる動作)に生じる腰痛です。特にスポーツ活動中や、長時間の立位で症状が悪化します。初期には運動時のみの痛みですが、進行すると日常生活でも痛みを感じるようになります。通常、下肢への神経症状はありません。
原因
腰椎分離症の主な原因は、腰椎への繰り返しの負荷です。特に腰を反らしながら捻る動作を繰り返すことにより、背骨の後ろ側の部分に疲労骨折が生じます。体操、野球、テニス、サッカーなどのスポーツに多く見られ、成長期の子どもの骨がまだ十分に強くなっていないことも発症に関与します。
治療
保存療法
急性期や初期の分離症では、骨癒合を目指した治療が行われます。スポーツ活動の休止、腰部コルセットによる固定、消炎鎮痛剤の使用などが基本となります。骨癒合が得られるまでには3~6ヶ月程度を要します。理学療法では、腹筋・殿筋の強化、ハムストリングのストレッチなどが行われます。
手術療法
保存療法で骨癒合が得られない場合や、症状が持続する場合には、分離部の骨移植術や脊椎固定術が検討されます。ただし、多くの症例で保存療法による改善が期待できます。
仙腸関節障害
仙腸関節障害は、骨盤を構成する仙骨と腸骨をつなぐ仙腸関節の機能異常により生じる腰痛・お尻の痛みです。関節の動きの制限や炎症により痛みが生じ、腰椎疾患と類似した症状を呈するため、診断が困難な場合があります。妊娠・出産や外傷をきっかけに発症することが多いです。
症状
仙腸関節障害の典型的な症状は、片側の腰部からお尻にかけての痛みです。特に椅子から立ち上がる時、階段の昇降時、寝返り時に痛みが強くなります。痛みは鼠径部や大腿部まで放散することもあります。長時間の座位や立位で症状が悪化し、歩行により軽減することもあります。
原因
仙腸関節障害の原因は多様です。妊娠・出産に伴うホルモンの影響による靭帯の緩み、外傷による関節の機能異常、姿勢不良による関節への過度な負荷、下肢長差による骨盤のゆがみなどが関与します。また、強直性脊椎炎などの炎症性疾患が原因となることもあります。
治療
保存療法
仙腸関節障害の治療は保存療法が中心となります。消炎鎮痛剤の服用、仙腸関節ベルトの使用、理学療法による骨盤周囲筋の強化とストレッチが効果的です。関節の可動性を改善するための徒手療法も行われます。
注射療法・手術療法
保存療法で改善が見られない場合には、仙腸関節内注射やブロック注射が行われます。さらに難治例では、仙腸関節固定術が検討されることもあります。
腰椎すべり症
腰椎すべり症は、腰椎が前方にずれる(すべる)疾患で、変性すべり症と分離すべり症に分類されます。変性すべり症は中高年女性に多く、分離すべり症は腰椎分離症に続発して発症します。すべりが進行すると脊柱管狭窄症を合併し、下肢の症状が出現することがあります。
症状
腰椎すべり症の初期症状は腰痛が中心です。進行してすべりが強くなると、脊柱管狭窄症を合併し、下肢のしびれ、間欠性跛行(歩いているうちに足がしびれて休憩が必要になる症状)が出現します。また、前屈位では症状が軽減し、後屈位では症状が悪化することが特徴的です。
原因
変性すべり症の主な原因は、年齢を重ねることで背骨を支える組織が弱くなることです。具体的には、背骨のクッションである椎間板が薄くなったり、背骨同士をつなぐ靭帯が緩んだり、関節の軟骨がすり減ったりすることで、背骨を正常な位置に保てなくなります。特に女性では、閉経後の女性ホルモンの減少により骨や靭帯がさらに弱くなるため、発症しやすいとされています。
分離すべり症は、腰椎分離症が原因となって起こります。腰椎分離症により背骨の後ろ側の支えとなる骨の部分に亀裂が入ると、背骨を正常な位置に固定する力が弱くなり、その結果として背骨が前方にずれてしまいます。
治療
保存療法
軽度のすべり症や症状が軽微な場合には、保存療法が選択されます。腰部コルセットの使用、消炎鎮痛剤の服用、理学療法による筋力強化が基本的な治療となります。神経症状がある場合には、神経ブロック注射も効果的です。
注射療法・手術療法
すべりが高度で神経症状が強い場合や、保存療法で改善が見られない場合には手術が検討されます。除圧術に加えて脊椎固定術が行われることが多く、すべりの矯正と脊椎の安定性の獲得を目的とします。手術により多くの症例で症状の改善が期待できますが、患者さんの年齢や全身状態を十分に考慮して適応を決定します。